日本最大の農産物の消費地ながら、東京には、土のにおいを感じられる場は多くない。そんな中、かつてスポーツのトップ選手だった人たちが農業に携わり、情熱を傾けている。畑に求めるものは、良質でおいしい作物だけではないという。
一転して300年続く農家へ
アメリカンフットボールの元日本代表、岡田啓太さん(34)=旧姓小宮=は結婚を契機に、4年前の8月から農家となった。
妻は、東京都三鷹市で14代、300年続いている農家の一人娘。婿入りして畑を継ぐことに抵抗はなく、最初から決めていたという。
アメフトでのポジションは屈強な選手が並ぶ守備の最前線。日大時代に甲子園ボウル(当時東西大学王座決定戦)に出場し、鹿島に入社後は社会人チームで活躍した。がらっと異なる世界へ転身にも、「新しいことに挑戦するわくわく感の方が大きかったです」。
義父に土作りから教わり、住宅に囲まれた計1ヘクタールの畑を手がける。少量多品目栽培の都市型農業で、年間30種類に及ぶ旬の野菜を近隣住民に販売している。FC東京の石川さんが農業に目覚めた農園の伊藤さんとは、地域の農家仲間だ。
昨年10月、東京産の野菜をPRしようと、キッチンカー(フードトラック)を出店した。従業員が働きやすいように、米国で走っていた大きなスクールバスを購入して改装。丹精込めて育てた野菜を盛り込んだ、分厚いサンドイッチ(プルドポークサンド)が看板メニューだ。
「傷ものでも新鮮な野菜はおいしいです。フードロスも考えてのことですが、地産地消をもっと普及させたい。東京で作るものが東京で広まってほしいんです」
都市の中にある畑には、ほかに様々な役割があるという。災害時の避難場所になるし、住宅密集地の火よけ地でもあり、治水効果があるとも考えられる。子どもが遊びに来て土に親しむなど住民との触れ合いが生まれるのも楽しい。
アメフトに打ち込んでいるとき、応援してくれる人たちはもちろん、「誰かを喜ばせたいという気持ちがいつも頭の片隅にあった」という。日々の舞台がフィールドから畑になっても、それは変わることがない。(隈部康弘)
実は農業に向いているアスリート
サッカーのFC東京などでプレーした元日本代表、石川直宏さん(41)の顔がほころんだ。「めちゃくちゃ甘くてみずみずしい。食べてほしいと思えるトウモロコシでした」
昨年、長野県飯綱町で農業に関わり始めた。5アールの農園「NAO’s FARM」を管理し、1500本のトウモロコシを収穫。8月末、クラウドファンディングに応じてくれた人たちを招いて味わった。
アスリートは農業と親和性があると考えている。まず体力がある。そして、自分と向き合う時間が長い。
土を耕すにも先を見ればつら…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル